1. スクリーン印刷での「スピン印刷」 の実践
スクリーン印刷で「スピン印刷」は、実現できないと思われている方が多いと思います。因みに、「スピン」とは、同心円状のラインパターンで、スクリーン印刷では最も難易度が高い印刷の一つです。
印刷ができない理由は、スクリーン版に「モアレ」が発生するために、印刷においても同様の「モアレ」が起こると思われているからです。本当でしょうか。
そもそも「モアレ」とは、二つの規則的な模様が重なった際に起こる幾何学的な干渉縞のことです。スクリーン版で視認できる「モアレ」は、同心円状の乳剤パターンと格子状のスクリーンメッシュの重なりで起こります。一方、基材の上に高品質に印刷されたインキは、乳剤パターンに忠実に転写されるため、干渉するものがなく「モアレ」は起こり得ません。つまり、「スピン印刷」でも、インキと版を適正化して高品質に印刷すれば、「モアレ」のない印刷が可能であると言えます。
実際にスピンパターンを印刷すると図1のようにスキージの入り側の部分で「版離れ」が極端に悪くなり、スキージ方向ににじみが発生しました。この対策として、超強度スクリーンメッシュHS-D360CL29乳剤厚15μmで、クリアランス量を、標準の2倍に設定し、「版離れ」の問題を解決しました。さらに、インキのにじみを防ぐためにスキージ角度75度、スキージ速度300mm/secで印刷しました。インキは、溶剤の揮発性が遅く、粘弾性が高い新規加飾インキを使用することで、「モアレ」やにじみのない連続印刷が実現できました。
図2は、ライン幅120μmのスピン印刷の各部の拡大写真です。(2017,8,16 記)
2. スクリーン印刷での「非接触印刷」
スクリーン印刷は、ゴム製のスキージでスクリーン版を押し下げ、基材に接触させ印刷します。この押し下げた際の圧力を「スキージ印圧」と呼び、通常は、スキージの先端が1.0〜2.0mm程度が変形するようにします。この際、「印圧は、1.0〜2.0mmである」と言います。
一方、スクリーン印刷では、スキージのアタック角度を小さくするとインキに対して加わる下向きの力を大きくすることができます。この原理を利用することで、スクリーン版を基材に接触させない状態でもスクリーン版の開口部から下向きにインキを突出させることができます。つまり、マイナスの印圧でも印刷が可能になります。
ステンレス200メッシュのスクリーン版のにラインパターンを形成して、印圧を−0.20mmでスキージアタック角度20度、スキージ速度30mm/secで印刷することで安定した非接触印刷が実現できました。ディスペンサーでインキを吐出しながら一筆書きする原理と似ていますが、パターンが連続しているため大面積を1ストロークで描画できます。基材が版との接触を嫌うものや、予めウエットのコーティングが施されている場合にも利用できます。
図3は、非接触スクリーン印刷のイメージ図です。図4は、実際に非接触印刷したウエット状態の外観です。スクリーン印刷工法の一つの可能性として利用してみてください。(2017,8,16 記)
3.「版離れ」のメカニズムの理解
スクリーン印刷のメカニズムの理解において、他の印刷工法と最も異なるのは、インキの転移です。オフセット印刷や凸版印刷など一般印刷は、版の画線部のインキが基材に接触して、一瞬で離れることでインキの塗膜が切断され転移します。
スクリーン印刷では、一定の厚みのあるスクリーン版の開口部に充てんされたインキの下面が基材に接触し、版が自らの反発力で上方に離れるに従い、徐々に開口部から引きはがされ、基材に転移します。インキ自体に凝集力と流動性があるため、転移率は、他の印刷よりも格段に大きい90%以上になります。このスクリーン印刷のインキ転移メカニズムは、特に「版離れ」と呼ばれ、「版離れ」を適正化することがスクリーン印刷プロセス構築の最も重要となります。
長年、スクリーン印刷を経験した方でも「版離れ」とインキ挙動の把握の重要性の理解が不足し、「版離れ」を単なる機械的な分離現象ととらえているケースが多く、非常に残念です。
図5のように「版離れ」は、スキージ移動による「インキ充てん」と「インキ掻きとり」に同期し、連続して行われるものです。スクリーン印刷の理解のためには、これらのメカニズムとインキの流動・変形を正しく理解することが必要になります。(2017,8,16 記)